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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)5457号 判決

原告 山本富子

〈ほか二名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 松井清志

同 松井千恵子

被告 寺沢清

〈ほか二名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 青木永光

同 加藤安宏

主文

一  被告らは各自、原告山本富子に対し金三〇〇万八四一三円、原告山本宏之及び山本佐織に対しそれぞれ金一五〇万九二〇六円及び右各金員に対する昭和五九年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告山本富子(以下「原告富子」という。)に対し金三八二万八五六四円、原告山本宏之(以下「原告宏之」という。)及び原告山本佐織(以下「原告佐織」という。)に対しそれぞれ金一九一万四二八二円及び右各金員に対する昭和五九年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告寺沢清(以下「被告寺沢」という。)は、普通貨物自動車(大阪四五な九九〇八号、以下「加害車」という。)の運転者であるが、昭和五九年一〇月二九日午後一〇時一〇分ころ、奈良県北葛城郡王寺町藤井から王寺町王寺へ向かう王寺町元町二丁目一八番二号先道路の車道上に加害車を駐車させておいたところ、訴外山本省三(以下「亡省三」という。)運転の原動機付自転車(平群町い九一〇号、以下「被害車」という。)が同所を通りかかり、加害車の右後部角に追突した(以下「本件事故」という。)。そして、亡省三は、同日本件事故による傷害のため死亡した。

2  責任

被告寺沢は、本件事故現場付近が夜間駐車禁止になっており、付近の街路灯の照射が及ばず暗がりになっていたのであるから、夜間の駐車を避け、駐車させる場合には尾灯を点灯して加害車への追突事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、夜間尾灯をつけずに前記道路進行方向左側に加害車を駐車させておいたものであるから過失があり、民法七〇九条に基づき亡省三の死亡によって生じた後記損害を賠償する責任がある。

また、被告粂谷博司(以下「被告粂谷」という。)は加害車を所有するものであり、被告株式会社ハリケーン(以下「被告会社」という。)は被告寺沢の使用者として同被告に加害車を使用させていたものであって、いずれも自己のために加害車を運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づきいずれも亡省三の死亡によって生じた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(亡省三の損害)

(一) 逸失利益 金五一九二万三七六〇円

亡省三は、昭和一六年五月二二日生まれの事故当時四三歳の健康な男子で、実質的には自ら酒類販売業を営み、その収入によって妻の原告富子、私立高校に在学中の子原告宏之、中学校在学中の子原告佐織を扶養していた。したがって、同人は、本件事故により死亡しなければ、就労可能な六七歳までの二四年間にわたり、少くとも昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(四〇ないし四四歳)を一・〇七〇一倍した月額三九万八八〇〇円の収入を得られたはずである。そこで、右の間に得られる収入総額から三〇パーセントの割合による同人の生活費を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の死亡時点における現価を求めると、次の計算式のとおり、金五一九二万三七六〇円となる。

398,800×12×(1-0.3)×15.5=1,923,760

(二) 慰謝料     金一八〇〇万円

(原告ら固有の損害)

(三) 弁護士費用

原告らは、本訴の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに委任し、その報酬として、原告富子は金三四万円、原告宏之、同佐織は各金一七万円の支払を約した。

4  過失相殺

本件事故の発生については、亡省三にも過失があり、その割合は七割である。

5  相続

前記のとおり、原告富子は亡省三の妻、原告宏之、同佐織は亡省三の子であって、同人の死亡により同人の被告らに対する損害賠償債権を法定相続分に応じ、原告富子が二分の一、原告宏之、同佐織が各四分の一の割合で相続により取得した。

6  損害の填補

原告らは、本件交通事故に基づく損害賠償として、加害車の自賠責保険から合計一四〇〇万円(原告富子は金七〇〇万円、原告宏之、同佐織は各金三五〇万円)の保険金の支払を受けた。

7  結論

よって、被告らそれぞれに対し、原告富子は、3(一)(二)記載の損害の三割に当たる金二〇九七万七一二八円の二分の一である金一〇四八万八五六四円から6記載の既払額七〇〇万円を控除し、これに弁護士費用金三四万円を加えた金三八二万八五六四円の損害賠償金、原告宏之、同佐織はいずれも右の金二〇九七万七一二八円の四分の一である金五二四万四二八二円から6記載の既払額三五〇万円を控除し、これに弁護士費用金一七万円を加えた金一九一万四二八二円の損害賠償金及び右各金員に対する亡省三死亡の日の翌日である昭和五九年一〇月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実中、亡省三が昭和一六年五月二二日生まれの事故当時四三歳の健康な男子であったこと、原告富子は亡省三の妻、原告宏之、同佐織は亡省三の子であること、原告らが本訴の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに委任し、その報酬として相当額の支払を約したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同5、6の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故の発生については、亡省三にも前方に対する注視を十分にせず、前照灯をつけずに被害車を運転した等の過失があるから、損害額の算定に当たっては同人の右過失を斟酌して減額がなされるべきであり、その過失割合は八割と見るべきである。

四  抗弁に対する認否

亡省三に前方不注視があったことは認めるが、その余の事実は否認する。同人の過失割合はせいぜい七割である。

第三証拠《省略》

理由

一  事故の発生

請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  責任

同2の事実も当事者間に争いがないので、被告寺沢は民法七〇九条に基づき、被告粂谷及び被告会社はそれぞれ自賠法三条に基づき、いずれも亡省三の死亡によって生じた後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

(亡省三の損害)

1  逸失利益

亡省三が昭和一六年五月二二日生まれの事故当時四三歳の健康な男子であったこと、同人には妻である原告富子、子である原告宏之、同佐織がいたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、亡省三は、本件事故当時、原告富子、同宏之、同佐織と同居していたが、原告富子は無職で、原告宏之は私立高校に、原告佐織は中学校に在学しており、右家族の生計は専ら亡省三の収入によって維持されていて不足を生ずるようなことはなかったこと、亡省三の家業は酒類販売業で、形式上は同人の母山本喜代子が営業名義人、亡省三はその使用人ということになっていたものの、右山本喜代子は、昭和四一年ころからは右の営業に関与しなくなり、亡省三一家とは別居して、右酒類販売業による収入から金員を受け取ることもなく、自己の老齢年金、遺族年金、家賃収入、持株の配当金等によってその生計を維持していたこと、右の酒類販売業は、亡省三が中心となり、同人と使用人一名とにより営まれていたが、亡省三の家族の生計は同人が右酒類販売業によって得る収入によって専ら維持されていたことが認められる。そうすると、亡省三は、本件事故により死亡しなければ、死亡の日以降就労可能な六七歳までの二四年間にわたり、毎年少くとも昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(四〇ないし四四歳)五〇二万八五〇〇円の範囲内にある金四七八万五六〇〇円の年間収入(月額三九万八八〇〇円)を得られたものと推認することができる。もっとも、《証拠省略》によれば、亡省三は昭和五八年度の税務申告上、前記酒類販売業の使用人として年間金一八九万円の給与しか得ていなかったとして税務申告がなされていることが認められるが、亡省三が右営業の実質的経営者であったことは前記認定のとおりであり、前記認定の家族関係及びその生活実態に照らせば、右の申告は亡省三の収入を正しく申告しているものとは到底考えられないので、右の推認を覆すには足りず、他に右推認を覆すに足る証拠はない。そこで、右の間に得られる収入総額から三〇パーセントの割合による同人の生活費を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の死亡時点における現価を求めると、次の計算式のとおり、金五一九二万二七五五円となる。

4,785,600×(1-0.3)×15.4997=51,922,755

2  慰謝料

亡省三は、本件事故により、妻子を残して死亡したものであって、その精神的、肉体的苦痛は甚大であり、右の苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一三〇〇万円をもって相当とするというべきである。

(原告ら固有の損害)

3 弁護士費用

原告らが本訴の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに委任し、その報酬として相当額の支払を約したことは当事者間に争いがないところ、本件事案の性質・内容、審理経過、認容額等諸般の事情に照らせば、そのうち本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は、原告富子については金二七万円、原告宏之、同佐織については各金一四万円と認めるのが相当である。

四  過失相殺

本件事故は、付近が夜間駐車禁止になっており、付近の街路灯の照射が及ばないため暗がりとなっている道路(車道)の進行方向左側に尾灯をつけずに駐車しておいた加害車の右後部角に被害車が追突したものであることは前記のとおりであり、亡省三が前方を十分に注視しないで被害車を進行させていたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、本件事故現場付近は非市街地であり、本件道路は、車道部分の幅員が六メートルで、その中央に中央線が、その両端に側線が設けられた平たんなアスファルト舗装の直線道路であったこと、本件道路は、追越のための右側部分はみ出しが禁止され、最高速度が四〇キロメートル毎時と指定されていたこと、加害車は、進行方向左側の側線をまたぐ形で、側線から車体を一・一メートル車道に出して駐車していたもので、加害車と道路中央線の間隔は一・九メートルであったこと、事故直後の実況見分において、亡省三が衝突地点から六・三メートル、被害車が衝突地点から一六・二メートル北(前)方に横転していたこと及び被害車のタコメーターの針は六と七の間を、スピードメーターの針は七〇と八〇の間を示して破損していたことが認められる。被告らは、亡省三は被害車の前照灯をつけないで走行していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

右の事実によれば、亡省三は、前方を注視して被害車を運転していさえすれば、加害車が前方に駐車しているのを発見することは容易にできたものであって、これを怠り、前方を十分に注視することなくかなりの速度で被害車を運転したものであるから、運転者の基本的義務に反した過失があり、その過失割合も大きいというべきであるが、夜間駐車禁止となっており、照明の及ばない暗い道路の左側に尾灯もつけずに加害車を駐車させていた被告寺沢の過失も無視できず、亡省三の過失割合は七、被告ら側のそれは三と認めるのが相当である。

そこで、亡省三の被告らに対する前記三12の損害合計六四九二万二七五五円から右被害者の過失を斟酌して七割に当たる金額を控除すると、その額は金一九四七万六八二六円となる。

五  相続

請求原因5の事実は当事者間に争いがないから、亡省三の被告らに対する前項記載の損害賠償債権を法定相続分に応じた割合で相続により取得した。したがって、相続により取得した原告らの被告ら各自に対して有する損害賠償債権の額は、原告富子につき金九七三万八四一三円、原告宏之、同佐織につきそれぞれ金四八六万九二〇六円となる。

六  損害の填補

請求原因6の事実は当事者間に争いがないので、これを前項記載の各金額から控除すると、その残額は、原告富子につき金二七三万八四一三円、原告宏之、同佐織につき各金一三六万九二〇六円となる。

七  結論

以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴各請求は、被告ら各自に対し、前項記載の金員に三3記載の弁護士費用を加えた原告富子については金三〇〇万八四一三円、原告宏之、同佐織については各金一五〇万九二〇六円の各損害賠償金及び右各金員に対する亡省三死亡の日の翌日である昭和五九年一〇月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれもこれを認容し、その余の各請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下滿)

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